カテゴリー: 電化
発行済み 17 9月 2021

グリーンスチールがこれまで以上に注目されています。 しかし、カーボンニュートラルな鉄鋼生産への移行を加速するには、規制支援とクリーンエネルギーの利用可能性の向上が必要です。それでも、短期的な観点であっても気候への影響を減らすために変化を起こすことができます。 この点について、世界鉄鋼協会の環境・気候変動責任者、Åsa Ekdahl氏が語ります。

CaptionÅsa Ekdahl, Head of Environment and Climate Change at World Steel Association

「低炭素の未来が本当の意味で実現するためには、政策変更が必要になるでしょう」とEkdahl氏は言います。 「鉄鋼業界は、将来のカーボンフリー電力ニーズや電化増加のメリットを政策立案者に明らかにする必要があります」。さらに、これらのメリットは化石燃料をカーボンフリーの電気に置き換えることで大きくなるでしょう、と彼女は言います。

しかしながら、一方で、ほとんどの国の送電網では、広範囲に及ぶ変化をサポートするために必要な規模とコストで低炭素電力を供給することができません。 たとえば、スウェーデンのHYBRIT(Hydrogen Breakthrough Ironmaking Technology)プロジェクト(SSAB、LKAB、Vattenfallにより設立。世界初の化石燃料を含まない鉄鉱石を使用する製鋼技術を開発するため、石炭を化石燃料を含まない水素に置き換えることを目指す取り組み)は、約15TWhの化石燃料を含まない電力を単独で消費することを期待されています。

サポートプロセスの電化がもつ大きな可能性
業界全体をグリーンスチールに転換するのに十分なカーボンフリー電力がない場合も、その間に持続可能性を高める措置を講じることはできる、とEkdahl氏は言います。 たとえば、鉄鋼メーカーの中には、水素がより手頃な価格になるまで、直接還元鉄(DRI)の生産のために天然ガスを中間解として使用することを選択するメーカーがいる可能性があります。 もう一つの選択肢は、サポートプロセスの電化を開始することです。

CaptionElectric car bottom furnace at Kanthal's production site in Hallstahammar, Sweden

「製鋼自体を低炭素プロセスへと変革する以外に、業界は再加熱、熱処理、サポートプロセスなどの他の重要な分野の電化に重点を置く必要があります。

スウェーデン鉄鋼生産者協会の推計によると、スウェーデンの鉄鋼業界の熱処理に使用される燃料の約80%、加熱に使用される燃料の約20%が電気に置き換え可能であることが明らかになっています。 これは、年間30万トンのCO2削減に相当し、鉄鋼業界の加熱および熱処理による年間排出量を半分近く削減し、40万トンにまで減らすことになります。 世界の鉄鋼業界に対する同様の予測はまだ出ていませんが、この機会が考慮すべきものであることには変わりありません。

先送りにすることは許されない
そして、現在のところは化石燃料ベースの電気を使用していくつか変更する必要がある、ということもあるかもしれないが、それは必ずしも先送りにする言い訳にはならない、とEkdahl氏は続けます。

「カーボンフリーの電力が十分に利用できなくても、今から切り替えることで、当分の間排出量を生み出すとしても、将来の電力ニーズの見通しを明らかにすることができます」と彼女は言います。

サステナビリティ対策は収益面でもメリットがあります。 たとえば、世界鉄鋼協会の「ステップアップ」プログラムは、企業が排出量を削減し、効率の向上を通じてエネルギーコストを節約するのに役立ちます。 worldsteel (世界鉄鋼協会)の調査によると、プログラムの導入が成功した場合、平均的な鉄鉱石ベースの製鋼現場で直接排出量および間接排出量を最大20%削減し、平均的なスクラップベースの施設で最大50%削減する可能性を秘めていることが明らかになっています。

誰もがアーリーアダプター(早期導入者)になれるわけではない
それでは、今の時点でグリーンスチール製造からメリットを得ることができるのは誰なのでしょうか。

低炭素鋼の製造が従来の方法よりも大幅にコストがかかることはよく知られていることです。 しかし、切り替える方針に舵を切る有名なブランドもいくつか存在しています。

4月に、スウェーデンの自動車大手Volvoは、高強度鉄鋼のパイオニアであるSSABと提携し、世界初となる化石燃料フリー鋼製の車両を開発し、製品化すると発表しました。 SSABは水素を使用する製鋼を進めており、今年末までにその鉄鋼が最初のコンセプト車と部品に組み込まれる可能性があります。 また、Mercedes-Benz AGは、スウェーデンの新興企業H2 Green Steelの株式取得を発表し、早ければ2025年に同社のCO2フリー鉄鋼を使用した車両を発表する意向を発表しています。

Ekdahl氏は、グリーンスチールセグメントのアーリーアダプター(早期導入者)であることには、潜在的な利点と欠点の両方があると考えています。

「同じビジネスというものはありません。 「グリーンスチールの商業的な実用可能性に関しては、何をするかによって大きく異なります。 高級市場をターゲットにしてハイエンド製品を作る場合、持続可能な製品に対してより多くのお金を支払っても構わないと考える顧客がすでにいるかもしれません」と彼女は言います。そして、「人によっては、技術が一般的に利用されるようになるまで待つ方が理にかなっているかもしれない、と考えるかもしれません」と付け加えました。

今の時点で大胆に舵を切るボルボのような企業の利点は、SSABなどの大手メーカーと提携して、自社の望む形で製品を開発する機会が得られる点です。 一方で、別のルートを選択する企業もあります。

「誰もが今できることは、政策立案者と関わることです」とEkdahl氏は言います。 「現在、グリーンスチールは非常に高価かもしれませんが、将来的にはより厳しい炭素ペナルティと排出規制に対応するために従来の技術の価格も上昇することになります。

真の変化には気候中立政策が必要
エネルギー部門に圧力をかけて低炭素エネルギーの生産拡大を促すこととは別に、政府や規制当局は気候政策や調達決定を通じてグリーンスチールの競争力を高める可能性がある、とEkdahl氏は話します。

「化石燃料フリー鋼が公的調達手順で指定されれば、移行がスピードアップするでしょう」と、彼女は次のように結論づけます。 「長期的には、米国、日本、中国、韓国などで見られているように、政府が気候中立政策を正式に進め始めると鉄鋼産業がそれに追随します。その時期から真の変化が起こってくるでしょう」